コラム

奥川恭伸の執念と小池田樹の意地|世代最強右腕はきっともっと強くなる

2019夏の石川大会準決勝・星稜と鵬学園の対戦は、8対6で星稜が勝利を収めた。

延長10回に及ぶ激闘の中で、7回からリリーフしたドラフト注目の奥川恭伸投手は2打席連続ホームランを記録。

1点ビハインドから8回表に放った同点弾に10回表の勝ち越しツーランと、バットでも素晴らしい活躍を見せた。

ただ、この一戦には、その記録上の事実だけでは語れないドラマがあった。

一人でも多くの人に、僕が感じたものが少しでも伝われば嬉しい。

星稜ペースで始まった試合

星稜と鵬学園の準決勝は、初回から試合が動いた。

ランナー2人を置いて星稜の四番・内山壮真選手がライトへのスリーランホームランを放ち3点を先制。

内山選手は1年生だった2018年から抜群の野球センスを見せていた選手だが、2年生とは思えない存在感で今年もチームの主軸を担う選手だ。

主砲の一発で勢いに乗り、一気に星稜ペースになるかと思われた。

しかしその裏、鵬学園もすぐさま反撃を見せる。

トップバッターの稲田昂大選手が、星稜先発の好左腕・寺沢孝多投手から先頭打者ホームラン。

稲田選手の一発もあり、簡単に流れを渡さなかった鵬学園も見事で、両者ともに譲らずに試合は中盤まで膠着状態が続いたが、5回表に星稜の三番・知田爽汰選手がホームランを放つ。

こうして4対1で星稜がリードした試合は、7回裏・鵬学園の攻撃で一気に動く。

試合を優位に進めていた星稜が、鵬学園の勢いに押されて逆転を許したのだ。

星稜が今大会初めて許したリード

7回裏の鵬学園の攻撃は見事だった。

ノーアウト一・二塁と寺沢投手を攻め立て、五番・米田武琉投手のタイムリー二塁打で1点差に迫ると、たまらず星稜はエース・奥川恭伸投手をマウンドに送る。

奥川投手は151キロのストレートを投げ込むなど二者連続三振で素晴らしい火消しを見せたかに思えたが、ツーアウト一・二塁で代打に送られた鵬学園の横山魁斗選手が見せた。

右打席で振り抜いた痛烈な当たりはレフト線を襲い、レフトが飛び付くも捕れず。走者一掃の2点タイムリー三塁打となって試合をひっくり返したのだ。

このとき球場の空気は明らかに変わった。

「おいおいマジか?」
「まさか星稜も負けるんじゃ…」

神奈川大会では横浜が県相模原に敗れ、大阪大会では大阪桐蔭も金光大阪にサヨナラ負けを喫した。

いずれも勝者が素晴らしいチームだけに「金星」などと言うつもりはないが、他地区の戦いを見ても、夏の高校野球に「絶対」などないことを今年は特に感じる。

無論、星稜も例外ではない。

鵬学園が一気に試合をひっくり返したこの場面では、少なからず「星稜敗退」が頭をよぎった観客は多かったはずだ。

しかし、この後だった。本当のドラマが待っていたのは。

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際立つ奥川恭伸の強さ

劣勢に立たされた場面で、我々はここから奥川恭伸投手の強さを見せつけられることになる。

逆転を許した直後、8回表に打席へ向かった奥川投手。この回の先頭打者だけに、簡単に打ち取られると流れが完全に傾く重要な打席だった。

その打席で、奥川投手は一塁へファールフライを打ち上げた。この瞬間に先ほど感じた「まさか」が助長された。

しかし一塁手がこのファールフライを落球。

その直後だ。奥川投手がレフトスタンド場外に消える起死回生の一発を放つ。

打ち直しでのこの集中力は、さすがとしか言いようがない。

最後の夏の舞台では普段起きないようなミスが起きたりするものだが、この場面では、それを最高のカタチでものにした奥川投手を称えるべきだろう。

ちなみに、このときマウンドに立っていた左腕・小池田樹投手は奥川投手の出身・宇ノ気中学時代のチームメイトで、当時も二番手としてマウンドを任されていた投手だ。

宇ノ気中学はこの代で全国制覇を果たしているが、そのときの仲間同士がこうして甲子園を懸けた舞台で再び激突できるのは何とも素晴らしい。

小池田投手もまた、同点ホームランを浴びた後をしっかり抑えたあたりに精神的な強さを感じた。

そして奥川・小池田両投手が9回を0点に抑え、同点のまま突入した延長10回。

いよいよこの試合もクライマックスを迎える。

奥川恭伸の執念と小池田樹の意地

10回表の攻撃、一死二塁で迎えた打席で、奥川恭伸投手は今日2本目となるホームランを放った。

甲子園が奥川投手を呼んでいるかのような、執念の一打とも言えるバッティングだった。

ちなみにこのときの二塁ランナーがレフト前ヒットで出塁した女房役の山瀬慎之助選手だったのだが、山瀬選手も奥川投手と同じ宇ノ気中学出身。

つまり、中学時代には小池田樹投手のボールも受けていたことになる。

かつてのチームメイトたちが3年越しの激突でこんなに素晴らしい戦いを見せてくれたと思うと胸が熱くなったが、このとき印象的だったのは小池田投手の姿だ。

途中から降り出した強い雨のなか投げ続けた小池田投手は限界をとうに越えていて、マウンド上では足がつっていた。

気持ちだけで投げ続けているのは誰が見ても明らかだった。

それでも最後まで投げたのは小池田投手の意地だったと思うが、この試合だけ頑張ってどうなる問題でもない。

彼がこれまで積み重ねてきたものや仲間への想い。色んなものを背負っていることが伺えた。

だから、最終回に見せた彼の涙には心を強く打たれた。

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試合終了で溢れた涙

奥川投手のホームランのあとにも1点を追加され、3点を追う鵬学園の最終回の攻撃。

小池田投手は仲間の攻撃を見つめながら、ベンチ前でキャッチボールをしていた。

味方が追い付くことを信じてか、あるいは打席を控える自分の心を落ち着かせるためか。その目からは涙が溢れていて、この試合に懸ける想いの強さが見てとれた。

まだ投げるつもりなのかと思うと、見ているこちらもつい涙が堪えられなくなった。

「星稜は甲子園で観たいけど鵬学園にも負けてほしくない」

こんな許されない矛盾も、高校野球ファンであれば理解してもらえると思う。

そして試合は進み、二死一塁から打席に立った小池田投手は気迫のバッティングで1点をもぎ取る。

ピッチャーへの高いバウンドの打球は奥川投手の一塁への悪送球を誘い(記録は1ヒット1エラー)、一塁ランナーが生還。

二塁ベースまで必死で走った小池田投手にはここで代走が送られたが、足を引きずりながらベンチへ戻る姿にはスタンドから大きな拍手が送られた。

結果的に鵬学園の反撃はここまでだったのだけど、試合終了時に待っていた最大のドラマがこれだ。


何度見ても感動する。まだ涙が出てくる。

こんなにグッとくる試合はそうそう見せてもらえるものではない。

敗れた鵬学園・小池田樹投手が涙。勝った星稜・奥川恭伸投手も涙。

こんなに美しいゲームセットがあるだろうか。

ベンチ入りを果たせなかった選手や敗れたチームの想いも背負って戦うから、最後の夏は短期間で選手たちを大きくするのかもしれない。

ちなみに小池田投手は、同じく鵬学園で惜しくもベンチ入り出来なかった大川由起選手と仲が良い。

大川選手は宇ノ気中学時代からのチームメイトで、奥川投手や山瀬捕手とも一緒に戦った選手だ。

星稜戦で見せた小池田投手の意地は、これまで積み重ねてきた練習はもちろん、大川選手の想いも背負っての戦いだったに違いない。

そんな、かつて共に戦った仲間たちの想いは、この試合で確かに引き継がれた。

甲子園優勝の夢を託された奥川恭伸投手は、これからきっともっと強くなる。

参考:奥川恭伸が中学時代に見せた大器の片鱗|ドラフト注目右腕の根底にあるもの

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